日本にスピードガンが導入されテレビの野球中継で球速表示が開始されたのは1979年とされており「スピードガンの申し子」と呼ばれた小松辰雄投手が、当時では珍しかった150km/h台を多数計測したことは良く知られています。
近年では選手の基礎体力の向上や「トラックマン」「ホークアイ」など計測技術の進化もあり、大谷翔平投手や佐々木朗希投手が先発投手でありながらも160km/h台を多数計測するようになりました。
本記事ではNPBにおける最高球速がスピードガン導入後の約40年でどのような変遷をたどっていったのかを探っていきます。
注1)公式戦・CS・日本シリーズを対象とする。オールスター戦は対象外。
注2)最高球速更新した場合のみを対象とする。同一球速は対象外。
最高球速推移グラフ
1979~80年代│黎明期
1980年代前半の野球中継における球速表示はフジテレビ系列やテレビ朝日系列などのように初速・終速を表示するタイプと日本テレビ系列のように1種類の表示をするタイプがありました。
日本テレビ系列(=後楽園球場)における球速表示は初速と終速が投球毎に変化するなどバラツキが大きく、フジテレビ系列で150km/h以上が表示されることが多かったように思います。
槙原寛己投手が155km/hを計測したのもフジテレビ系列の中継でした。
1982年10月27日 小松辰雄投手 154km/h
日本シリーズの西武戦にリリーフ登板し6回に初速154km/h(153.6km/h)を計測。当時の最速を更新
1983年4月28日 槙原寛己投手 155km/h
中日戦の7回からリリーフ登板し8回に初速155km/hを計測。当時の最速を更新
この表示を額面通りに受け取ると初速155km/h、終速150km/hで両者の差は5km/hという事になります。
しかしながら近年のトラックマンの計測では初速と終速の差は15km/h程度が一般的であり、槙原投手のこの1球を初速・終速と表現して良いかどうかには疑問符がつきます。
1985年7月8日 郭泰源投手 156km/h
日本ハム戦で先発し156km/hを計測。当時の最速を更新。
郭泰源投手が156km/hを計測した以降、80年代において157km/h以上を計測する投手は現れませんでした。
1990年代│160km/hへの挑戦
1990年には野茂英雄投手、与田剛投手が新人として大活躍し、野茂投手は152km/h、与田剛投手が157km/hを計測し大きな話題になりました。
そして1993年に伊良部秀樹投手が清原和博選手に投じた158km/hはその後長く最速記録として君臨することになります。
伊良部秀樹投手はオールスター戦では159km/hを計測することもありましたが20世紀中に160km/hに到達する投手は現れませんでした。
1993年5月3日 伊良部秀樹投手 158km/h
西武戦の8回からリリーフ登板し清原和博選手への投球で当時の最速を更新
2000年代│ついに160km/h台に到達
1993年に伊良部秀樹投手が158km/hを計測してから12年、2005年に日本球界初の160km/hをクルーン投手がマークしました。
クルーン投手は3年後の2008年に162km/hをマークし、以後長期にわたって最速投手の称号をキープすることになります。
2000年代には150km/h台後半の投手は珍しくなくなり、林昌勇投手が2009年に160km/h、山口和男投手と五十嵐良太投手が158km/hを計測しています。
2005年7月19日 クルーン投手 161km/h
阪神戦に延長12回から登板し赤星選手に対して161km/hを計測。当時の最速を更新。
2008年6月1日 クルーン投手 162km/h
ソフトバンク戦に延長10回から登板し松田選手に対して162km/hを計測。当時の最速を更新。
2010年代│日本人160km/h時代が到来
2010年8月26日横浜戦において由規投手が神宮球場の電光掲示板表示で日本人初の161km/hを計測。
テレビ中継では152km/hだったため物議を醸しました。
2012年7月19日、岩手県大会の準決勝で大谷翔平投手によって高校生史上初の160km/hが記録されています。
大谷翔平投手はプロ入り後も順調に球速を伸ばし、2014年にはクルーン投手に並ぶ162km/h、2016年には163km/h、164kmと最速更新を続け、クライマックスシリーズでは165km/hにまで到達したのは記憶に新しいところです。
2016年6月5日 大谷翔平投手 163km
巨人戦に先発し4回クルーズ選手に対して163km/hを計測。
2016年9月13日 大谷翔平投手 164km
阪神戦に先発し3回糸井選手に対して164km/hを計測。結果はライト前に落ちるヒット。
2016年10月16日 大谷翔平投手 165km
日本シリーズへの進出が決定するクライマックスシリーズ第5戦の9回にクローザーとして登板し165km/hを計測
2020年代│170km/hが射程圏内に
2020年代に入って160km/h台の投球は急増しました。
前述したように計測技術の進化も背景にあると思われます。
2023年には佐々木朗希投手が165km/hを4球計測しています。
佐々木朗希投手は2022年の1年間だけで160km/h以上を312球計測。今後の記録更新に大いに期待が持てます。
2021年8月13日│ビエイラ投手 166km/h
中日戦の9回にクローザーとして登板しA.マルティネス選手に対して166km/hを計測
現在の最速はビエイラ投手の166km/h。
近い将来に更新されることを期待して本稿を締めさせていただきます。